国立大学法人東京科学大学 総合診療科、株式会社シーユーシー、一般社団法人地域医療未来創造ネットワーク(NRHA/ナーハ)は、在宅医療・総合診療を志す医師の育成と実地修練、また、在宅医療の標準化及び医療経営のための多職種教育プログラムの開発を目的にジョイントリサーチ講座を開設しています。
今回は、医療法人社団綾和会 間中記念御幸の浜リハビリテーション病院にて、本講座の取り組みの一つである医師の実地修練の教育担当を務め、医療経営セミナーの参加者でもある露木寛之先生にお話を伺いました。

間中記念御幸の浜リハビリテーション病院
副院長 兼 訪問診療部部長
家庭医療専門医・指導医 総合内科専門医
露木 寛之 先生
Q1. 実地修練の内容と、露木先生がどのようにご指導を行っているのか、教えてください。
東京科学大学 総合診療科より今回実地修練にお越しいただいた先生には、外来、救急搬送の初期対応、病棟管理、訪問診療の4部門をバランスよく担当していただいています。当初は私と一緒に診療を回って患者様を引き継ぎながら、間中病院の診療スタイルをお伝えしていきました。
指導の軸としているのは、総合診療において重要なBPS(生物・心理・社会)モデルの考え方です。特に、P(心理的視点)とS(社会的視点)を日々の診療でどのように意識すべきか、考え方の助言を行っています。お越しいただいた先生は基礎的な医学知識の基盤がすでにしっかりされているため、医療技術をゼロから教えるというよりは、心理的視点と社会的視点の視点を交えながら「現場で一緒に考える」というスタンスをとっています。
総合診療科、特に高齢者医療の現場では、ある側面では正解に見えても別の側面からは懸念が残るような、絶対的な解のない局面に迫られることが多々あります。こういったケースに対し、特に専門的な経験を重ねられている先生方の場合は深く悩まれるため、私は「その判断で良いと思う」「それは少しやりすぎかもしれない」と客観的な視点から背中を押したり、自発的に判断・行動ができるように促したりするサポート役に徹しています。
Q2. 実地修練の先生を受け入れる中で、院内の診療の質に変化はありましたか?
現在、当院の総合診療科の医師は4人体制になっていますが、最大の成果は複数の視点が入ることで単独での診療にならなくなったことです。往診時など、患者様の容態を1人や2人ではなく4人で診ることでお互いの目が行き届き、先ほど申し上げたような絶対的な解のない高齢者医療の症例についても、ディスカッションを通じて様々な発見が生まれています。週に一度は1時間半ほど時間をとり、ご自宅に帰すのか、お看取りの場所をどこにするのかといった難しい課題についても、最善の判断をするため全員で話し合っています。
もちろん、一人の医師がすべての領域(外来・救急・病棟管理・訪問診療)を診るにはタイムマネジメントや頭の切り替えが難しく、その先生も実際に悩まれていた時期がありました。しかし、もし4人の役割を完全に分業してしまったら、申し送りの際にどうしても情報の温度差が生まれ、退院調整など患者様の重要な選択に影響が出てしまいます。同じ土俵に立ち、全員で同じモチベーションを共有しているからこそ適切な判断ができると考えています。
また、私たちは日々の訪問診療を通じて、地域の各施設の特徴を肌感覚で理解しています。「この患者様なら、あの施設が合っているのではないか」とミスマッチを防ぐことで、高齢者の不要な救急搬送を減らしたいという目標を持っています。地域の病床は貴重な医療インフラです。ご自宅も含め、患者様を最適な療養環境へと導き、病院でもご自宅でも施設でも安心して過ごしていただけるようにすることが、私たちの大きな使命だと感じています。
Q3. 大学病院と地域の病院が連携し、このような教育プログラムを実施することの意義は、どのようなところにあるとお考えですか?
大学の先生方にとって、地域の病院は「リアルな実践を学ぶ場」としての大きな意義があります。例えば、今回お越しいただいた先生も、地域で総合診療を行う上では周辺の各施設ができること・できないことを正確に把握しておく必要があると考え、当初はそうした地域情報の収集に熱心に取り組まれていました。
当院のような地域に根ざした病院では、「患者様がご自宅へ帰られた後も、自分が責任を持つ」というマインドセットを養うことができます。非常に風通しの良い環境が整っているため、専門医取得を目指す段階で、自ら主治医としての当事者意識を持って取り組める方に来ていただければ、学べることは特に多いはずです。
一方で、私たち病院側の視点としては、現場に日々蓄積されている「地域のリアルワールドデータ」を活かし、学術的なデータ発信をもっと積極的に行っていきたいという目標があります。この点において、研究の専門機関である大学側と連携を深めていければと期待しています。
ジョイントリサーチ講座では、このような現場での診療スキルを深めるプログラムの他、医療機関の経営ノウハウを学ぶ教育セミナー「実践から学ぶ病院・在宅クリニック経営ラボ」を実施しています。
Q4. 経営ラボにも複数回ご参加いただいた露木先生の率直なご感想をお聞かせください。
経営ラボとは...医療経営の第一線で活躍する講師陣が、講義とワークショップを通じて、現場目線の「実践知」をお伝えするセミナーです。
経営に関心を持ち始めた方からマネジメント業務を現在担う方まで多様なバックグラウンドを持つ参加者が日々の経営課題を共有し、意見交換ができる場となっています。
◆ 露木先生:
副院長という役職に就き、病院経営についても本格的に考えなければならなくなったタイミングだったため、経営の初心者にとって今回のセミナーは非常にありがたい学びの場でした。
最初は「病院経営に携わるなんて、本当に自分にできるのだろうか?」という不安もありました。しかし、経営ラボで学ぶうちに、組織や仕組みを自ら構築していくことの面白さを実感するようになりました。マネジメントの基本手法はもちろん、診療報酬を踏まえた経営の考え方や地域を巻き込んだイベントの企画など、現場ですぐに活かせる具体的なノウハウやアイデアを獲得できたことは大きな収穫です。今後こういった機会にご参加いただく医療関係者の方が増えると良いなと思います。
◆ 参考:2025年度「実践から学ぶ病院・在宅クリニック経営ラボ」開催テーマ
露木先生も参加された同セミナーでは、2025年度に以下のような実践的なテーマで講義やワークショップが実施されました。
第一回:「新たな地域医療構想を見据えた病院・在宅医療経営の未来戦略」
第二回:「“33歳外科医が挑んだ”事業会社連携で実現した病院再生の軌跡」第三回:「在宅診療医が導いた、地域とともに歩むコミュニティホスピタル再生ストーリー」
第四回:「キャリアと未来をつなぐ!医療法人承継と医師キャリアの新たな選択肢」
◆ 共催者(NRHA/ナーハ)より
本講座を企画・運営するNRHAでは、「持続可能な地域医療の未来をともに創る。」をミッションに掲げ、現場で地域医療を支える医療介護職の方々、医療機関経営・マネジメントに挑戦する医師の方を支援する取組を行っています。今後ともジョイントリサーチ講座を始め、地域医療への貢献を様々な形で続けてまいります。
◆ 2026年度経営ラボの開催について
2026年度も「実践から学ぶ病院・在宅クリニック経営ラボ」は年間3回開催いたします。
(※第1回のお申込み期間は終了しております。)
【第2回開催概要】
「どん底」の危機からの再生
~スタッフの当事者意識を引き出し、経営転換を成し遂げた訪問診療の軌跡~
講師:五十嵐 雅先生(医療法人社団 昌健会 理事長 / みんなのライフサポートクリニック大網 院長)
開催日時:2026年9月12日(土)15:30~17:30 (18:00~ 交流会)
場所:東京科学大学 湯島キャンパス (最寄駅:御茶ノ水駅 / 新御茶ノ水駅) ※オンライン開催、配信の予定はございません
参加費:無料
参加条件:医師免許をお持ちの方
(※ご所属の医療機関より、他職種の方も1名までご同席いただけます。
申込フォームもしくはメールにて事務局にご相談ください。)
申込URL:https://forms.gle/yNfJm3hqgGSXgLE19
*日本プライマリ・ケア連合学会の専門医・認定医更新のための単位取得可能(2単位)*